トレーダーも注目のAI(人工知能)による株取引自動化

「AI金融」時代の到来

人工知能が人間に「買い」を指示する「AI金融」時代の到来

 

2016年1月、人工知能(AI)界の世界的権威、ベン・ゲーツェルがチーフサイエンティストを務める香港Aidyia社が、
AIによって株取引が完全自動化されたヘッジファンドを立ち上げた。
近年、Aidyia社のように、AIに次々と新しい技術を応用し、株取引を行う試みが増えてきている。

 

「もしわたしたちが全員死んだとしても、取引は続くことになるだろうね」と、
この会社のチーフサイエンティストであり、AI界の第一人者であるゲーツェルは語った。

 

彼らは必要に応じて、修正を加えていくことになる。
しかし彼らの「創作品」は、遺伝進化から発想を得たAIや、確率論に基づいたAIといったさまざまなAIをもとに、
完全に自分自身で取引を識別・実行していく。
市場価格から出来高、マクロ経済データ、企業会計文書まで、あらゆることを日々分析したのち、
これらのAIは各自で市場予測を行い、そして行動すべき最高の“投票”を実行する のだ。
Aidyiaは香港に拠点を置いているが、ゲーツェル曰く、この自動システムは米国株式の取引を行っているという。
初日には、未公開の資金プールで2パーセントのリターンを生んだそうだ。
この結果は必ずしも目を見張るようなものではなく、統計学的にも妥当なものでもない。
しかしこれは、金融世界における顕著なシフトを表すものだ。

AI取引でトレーディングルームに変化

アメリカのニューヨークで開かれた金融関連のイベント「バトル・オブ・ザ・クオンツ」。
クオンツとは高度な数学や物理などの知識を駆使し、金融商品や新たな投資手法を開発する専門家のことです。

 

イベントには、世界各国から集まった投資ファンドなど16社が参加。
自分たちが開発した人工知能を使って、ことし4月までの3か月間に株式や先物市場で取り引きし、
どれだけ利益をあげられたかを競い合いました。
その結果、上位3社の運用利回り は20%以上。
トップの成績を収めたファンドは48%という高い利回りを達成しました。

 

人工知能を使った取り引きは、どんな人たちが行っているのか・・・
イベントに参加した会社の1つ、カナダを拠点とする「KFL」という投資ファンドは、
会社のホームページでは「人工知能はすべての投資家が見てきた景色を永遠に変えるものだ」とうたっています。
実際にトロント郊外にあるオフィスのトレーディングルームは、どの投資ファンドや銀行のものとも異なっている。

 

とにかく静か

 

一般的な投資ファンドなどのトレーディングルームでは、ディーラーは複数のディスプレイを見て
経済指標や市場の値動きを逐一、確 認しています。
そして、相場を左右するニュースが飛び込んできたことを知らせる大きな声が響いていたり、
顧客からの電話がひっきりなしにかかってきていたりして、活気に満ちているものです。

 

しかし、この会社では5人ほどの社員が無言でパソコンに向かっていて、
聞こえてくるのはパソコンのファンの音くらい。
CEO=最高経営責任者のデイブ・サンダーソンさんは、社員は数学や物理を専門としていて、
「ディーラーでもエコノミストでもなく科学者なのです」と話している。
投資ファンドの社員なのに、金融に関する知識は少なく、
経済ニュースにほとんど関心がないというから衝撃だ。

超高速取引

アメリカでは、この「超高速取引」の是非を巡って今、議論が巻き起こっています。

 

シカゴに住む超高速取引の仕組みに詳しい専門家のエリック・ハンセイダーさんは
「超高速取引が市場の公平性をゆがめている」と指摘。

 

一部の市場参加者が『速いスピードで売買できる』という有利な条件のもとで取り引きを行うのは公平ではなく、
投資家の市場への信頼を損なうと言う。

 

「超高速取引」の存在が、株価などの極端な乱高下を招くと危惧する声も広がり始めています。

 

2010年5月にダウ平均株価が数分間でおよそ1000ドル下落し、
一時的に株式の時価総額およそ120兆円以上が失われるという「フラッシュ・クラッシュ」が起きました。
ある投 資ファンドが大量の誤発注を行ったことが直接の原因とされていますが、
市場関係者の間では超高速取引会社が下落幅を拡大させたという見方があります。

 

AI同士が競い、自然淘汰されていく

Sentient TechnologiesのCEO、アントワーヌ・ブロンドーは、
自社ファンドを公に市場に出すことはしていないものの、(長期間の試験取引後に)昨年からは
個人投資家からの資金を使って正式な取引を始めたと話す。

 

『ブルームバーグ』の報道によると、AI取引技術の開発において、
この会社はJPモルガン・チェース内のヘッジファンド事業と協働しているが、
パートナーシップ提携について協議することは、ブロンドーが断ったのだという
(ファンドはAIを介して完全に作動している、と彼は強調している)。

 

「企業は、システムの特定のリスク設定を調整することができます」とチーフサイエンスオフィサーであり、
アップルのものになる以前のSiri開発チームのメンバーだったババク・ホジャッドは言う。

 

しかし、それ以外では、このシステムは人間の助けを借りることなく機能する。
「このシステムは自動的に戦略を生み出し、わたしたちに指示を出します」と、ホジャットは話す。
「 『いま、この銘柄をこれだけ、この手段で、この特定の注文方法を使って、購入して下さい』という風にです。
手仕舞いのタイミングや、エクスポージャーの割合を下げるタイミングといったことを教えてくれます」

 

ホジャットによると、このシステムは、アジア内外のさまざまな企業が運営するデータセンター、
インターネットカフェ、そしてコンピューターゲームセンター内にある“数百万”のコンピュータープロセッサーから、
未使用のコンピュータ処理能力(計算能力)を素早くとらえるそうだ。

 

その一方で、そのソフトウエアエンジンは進化的計算法に基づいている。
Aidyiaのシステムでも使われている、遺伝学からヒントを得た技術だ。
簡単に言うと、これはデジタル株トレーダー が大規模でランダムな集団をつくり出し、
過去の株式データ上で、彼らのパフォーマンスを実際に試してみることを意味する。
最高のパフォーマーたちを選んだあと、優れたトレーダーの新しい集団をつくるために
彼らの“遺伝子”を利用するのだ。

 

そこからは、このプロセスの繰り返しである。すると最終的にこのシステムは、
自分ひとりで上手く運用を行えるデジタルトレーダーにたどり着くこととなる。

 

「数千世代にわたって、何兆もの“生き物”が競い合い、繁栄し、死んでいきます」と、ホジャットは語った。
「そして最終的にあなたは、実際に配備できるようなスマートトレーダーの集団を獲得するのことになるのです」
Aidyiaのチーフサイエンティスト、ベン・ゲーツェルと、同社CEOのケン・クーパーへの『ブルームバーグ』によるインタヴュー

 


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ニューロエヴォリューション

今日のシステムを駆動しているのは進化的計算法だが、
ホジャットはディープラーニング・アルゴリズムにも将来性を見出している。

 

画像の識別、話し言葉の認識、そして人間の自然な話し方の理解にも十分に熟達していることが
すでに証明されているアルゴリズムだ。

 

ディープラーニングは、猫の写真の特徴を正確に指摘できるのと同様に、
ある程度のお金を稼げる株式の特徴を識別することができるようになるだろう、と彼は説明した。

 

OpenCog財団も監督し、汎用人工知能用オープンソースのフレームワーク構築に奮闘しているゲーツェルは
違う意見をもっている。

 

ひとつにはディープラーニング・アルゴリズムがすでに商品となっているからだ。
「もしすべての人がそれを使うのだとしたら、彼らの予測も市場に織り込まれることになるからね」と、彼は言った。
「とても奇妙なことをすることになるよ」
ゲーツェルはまた、ディープラーニングは写真や言葉といったある
特定のパターンをもつデータを分析するのには適しているが、
このような種類のパターンが金融市場でも見られるとは限らない、ということも指摘している。

 

そしてもしパターンが見られたとしても、それが必ずしも役に立つわけではない という。
なぜなら、繰り返しになるが、誰でもそのパターンを見つけ出すことができるからだ。

 

しかしホジャットにとっては、今日のディープラーニングに改良を加えることが任務なのだ。
そしてその任務には、ディープラーニングの技術を進化的計算法と組み合わせることも含まれているのだろう。
彼自身も説明しているように、あなたでも、より優秀なディープラーニング・アルゴリズムを構築するために
進化的計算法を活用することができる。
これは、ニューロエヴォリューションと呼ばれている。

 

「ディープラーナーに対して効果がある影響力を、誰もが進化させることが可能なのです」と、ホジャットは語った。
「しかし、ディープラーナー自身の基本設計概念を進化させることもできます 」。
マイクロソフトなどのチームは、進化的計算法自体を使っているわけではないかもしれないが、
ある種の自然選択を通じて、ディープラーニング・システムを構築し始めている。

AIによる取引はどうなっていく・・

どのような方法が用いられているにせよ、一部の人はAIが本当にウォールストリートで通用するのか疑問に思うだろう。

 

あるファンドがAIで成功を収めたとしても、別のファンドがそのシステムを複製することで、
いつの間にかその成功が害されるリスクがあるからだ。
市場の大部分が同じ方法で動けば、市場を変化させることになる。

 

「AIが本当にどうにかする方法を見つけ出せるのか、わたしは少し懐疑的ですね」と、カールソンは語った。
「誰かがAIによる取引を上手 く機能させる手段を見つけたとしたら、
ほかのファンドもそれを手に入れるばかりか、投資家たちもお金をどっと投入してきますからね。
これが単なる鞘取り(裁定取引)に終わらないと考えるのは、とても難しいことです」

 

ゲーツェルは、このリスクを理解している。
だからこそ、Aidyiaは進化的計算法だけでなく、広範囲にわたるテクノロジーを使っているのだ。
もし他企業が自分の会社の方法を真似たとしたら、違う種類の機械学習を採用することになっている。
ほかの誰も、そして、ほかのどのマシンも行っていないことをする。それが全体的な趣旨なのだ。
「金融っていうのは、自分がスマートじゃなくても利益を生み出せる領域なんだよ」と、ゲーツェルは言う。
「ほかの人とは違った方法 でスマートならね」

 


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